雇用保険制度とは
日本の雇用保険は、1927年に雇用保険法の成立によって始まりました。この法律により、労働者が失業した際に一定の給付を受け取ることが可能な仕組みができたといえます。その後、戦後日本が復興する中で1954年に雇用保険法が改正され、より包括的な制度へと変化しました。経済や労働環境の変化によって幾度も法律が改正され、現在の制度となっています。雇用保険は、労働者やその家族が失業等による収入減少に備えるための根幹となる社会保障制度として重要な役割を果たしています。2000年に失業等給付から育児休業給付が切り離され、雇用保険制度において育児休業給付が独立した形となりました。
背景~雇用安定資金残高の激減~
コロナ禍による失業者の急増により雇用安定資金残高が激減しました。令和元年に約1.5兆円あった雇用安定資金残高が0円になりました。失業保険の積立金からの借入が令和2年~令和5年累計見込みとして3.36兆円です。コロナ禍の後に、雇用保険と雇用保険二事業の保険料率引き上げを行い財源を確保しようとしているのがわかるかと思います。
改正のポイント
1.雇用保険法の一部改正
1.雇用保険の適用拡大(2028年10月1日施行)
- 以前は一週間の所定労働時間が20時間未満の者であったのが、10時間未満の者が雇用保険法の適用除外とする。つまり一週間の所定労働時間が10時間以上であれば適用となる。
- 基本手当の被保険者期間の計算については、賃金の支払の基礎となった日数が6日以上であるもの又は賃金の支払の基礎となった時間数が40時間以上であるものを1か月として計算する。基本手当の日額の算定に用いる賃金日額の下限額を1230円とする。
- 受給資格者が、失業の認定に係る期間中に自分で働いたことによって収入を得た場合の基本手当の減額等に関する規定をなくす。
改正の趣旨である「多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネット」とは、今まで は雇用保険の被保険者の要件では、週所定労働時間を「20時間以上」だったのを、「10時間以上」に変更することで、求職者支援制度の支援対象にするということも含まれます。
求職者支援制度とは再就職、転職、スキルアップを目指す人が、月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講する制度のことです。こちらの制度を利用するために週所定労働時間を10時間以上に拡大することが雇用のセーフティネットということになります。
また育児休業給付や失業給付など雇用保険に加入した際に受けることができる給付の受給が可能となります。
2.基本手当の給付制限の見直し(公布の日又は2024年4月1日のいずれか遅い日)
- 雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な教育訓練を受ける受給資格者(正当な理由がなく自己の都合によって退職した者に限る)については、該当する教育訓練を受ける日以降(離職日前1年以内に該当する教育訓練を受けたことがある者については待期期間の満了後)、失業している日について、基本手当を支給。補足として、自己都合で退職した者については、給付制限期間2か月としているが教育訓練を受ける場合は1か月に短縮。(通達)
3.就業促進手当の改正(2025年4月1日施行)
- 職業に就いた受給資格者(安定した職業に就いた者は除外)であり、基本手当の支給残日数が所定給付日数の1/3以上かつ45日以上であるものに対して支給される就業促進手当を廃止する。
- 安定した職業に就き就業促進手当の支給を受けた者であり、同一の事業主の適用事業にその職業に就いた日から引き続いて6か月以上雇用される者のうち一定の要件を満たした者に対して支給される就業促進手当の支給限度額を、基本手当日額に基本手当の支給残日数に相当する日数に2/10を乗じて得た数を乗じて得た額とする。
4.教育訓練給付の改正
- 教育訓練給付は、教育訓練給付金及び教育訓練休暇給付金とすること。(2025年10月1日施行)
- 教育訓練給付金の額について、一般被保険者又は一般被保険者であった者が教育訓練の受講する際に支払った費用の額に20/100以上80/100以下の範囲内において厚生労働省令で定める率を乗じて得た額とする。つまり最大70/100から80/100に引き上げられる。(2024年10月1日施行)
- 教育訓練休暇給付金の創設 一般被保険者が、職業に関する教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、当該教育訓練休暇を開始した日から起算して1年内の教育訓練休暇を取得している日について、当該一般被保険者を受給資格者と、休暇開始日の前日を受給資格に係る離職の日とみなした場合に支給されることとなる基本手当の日額に相当する額の教育訓練休暇給付金を、特定受給資格者以外の受給資格者に対する所定給付日数に相当する日数分を限度として支給する。ただし、休暇開始日前2年間におけるみなし被保険者期間が、通算して12か月未満の時と、当該一般被保険者を受給資格者と休暇開始日の受給資格に係る離職の日とした場合の算定基礎期間に相当する期間が、5年未満の時は除外する。(2025年10月1日施行)
- 教育訓練支援給付金の改正 賃金日額に50/100から80/100までの範囲で厚生労働省令で定める率を乗じて得た金額に60/100を乗じて得た額とするとともに、令和9年3月31日以前に教育訓練を開始した者に対して支給する。
教育訓練やリ・スキリング支援の充実
教育訓練給付制度は、雇用保険法の失業等給付のひとつであり、厚生労働大臣が指定の教育訓練を修了した際に受講費用の一部が支給される制度です。
- 専門実践教育訓練指定講座:追加最大で受講費用の70%(年間最大56万円)を受講者に支給。講座数2861(令和5年10月1日時点)
- 特定一般教育訓練講座:受講費用の40%(上限20万円)を受講者に支給。講座数572講座(令和5年10月1日時点)
- 一般教育訓練講座:受講費用の20%(上限10万円)を受講者に支給。講座数不明。
年々、対象となる講座数は増えています。
リ・スキリングとは、職業能力の再開発や再教育のことです。横文字にするとなんだかカッコいい感じになる気がします。新しい技術を身につけて新しい業務や仕事に就くために自己研鑽を行うことだと言えます。
リ・スキリングによる能力向上支援の予算
今回の重点事項の1つであるリ・スキリング能力向上支援ですが、厚生労働省予算案においては1468億円の予算がつくことになっています。前年度は1379億円でしたので、89億円増となります。
岸田首相は2022年に、リ・スキリングのために支援制度の新設や拡充に向けて「今後5年で1兆円を投入する!」と宣言しています。
今回、創設予定の子ども・子育て支援金において、初年度である2026年度に約6千億円、2027年度には約8千億円、2028年度には約1兆円を徴収する見込みです。2026年度と2027年度はこども・子育て支援特例公債で補填を行います。
つまり、リ・スキリングで税金をバラまいて、子ども・子育て支援金のために増税するという皮肉なことになってしまっているのです。
5.国庫負担の改正
雇用保険では、失業等給付、育児休業給付、雇用保険二事業を実施しており、これらを区分経理しています。令和2年改正法によって、育児休業給付を失業等給付から切り離して経理しています。保険料負担は、失業等給付・育児休業給付は労働者・事業主折半となっており、雇用保険二事業は事業主のみの負担となっています。
- 国庫は、教育訓練給付(教育訓練休暇給付金のみ)について、求職者給付に必要とされる費用に係る国庫の負担額と同じく、労働保険特別会計の雇用勘定の財政状況および受給資格者の数の状況に応じて該当する教育訓練給付に必要とされる費用の1/4または1/40を負担する。(2025年10月1日施行)
- 育児休業給付に必要とする費用に係る国庫の負担額において、1/80としていた暫定措置を廃止し、本来の1/8とする。(公布の日又は2024年4月1日のいずれか遅い日)
- 介護休業給付に必要とする費用に係る国庫の負担額については、暫定措置を延長。令和8年度までの各年度の国庫負担額については、国庫が負担すべきとされる額の10/100に相当する額とする。(公布の日又は2024年4月1日のいずれか遅い日)
- 雇用保険の国庫負担については引き続き検討。令和9年4月1日以降できるだけ速やかに安定した財源確保の上で国庫負担に関する暫定措置を廃止する。(公布の日又は2024年4月1日のいずれか遅い日)
基本手当の支給に関する暫定措置の改正
特定理由離職者(雇止め、病気やケガ、妊娠等の正答な理由で自己都合退職した人で厚生労働省で定める者のこと)を、特定受給資格者(会社の倒産や、解雇された人等)とみなして基本手当の支給に関する規定を適用暫定措置を令和9年3月31日以前の離職者まで適用。
地域延長給付の改正
令和9年3月31日以前の離職者まで適用。
2.労働保険の保険料の徴収等に関する法律の一部改正
1.雇用保険料率の改正
- 育児休業給付に要する費用に対応する部分の雇用保険料率を、5 /1000(0.5 %)とする。
- 厚生労働大臣は、毎会計年度において、労働政策審議会の意見を聴いて、育児給付の保険料率を引き上げつつ(0.4%→0.5%)、保険財政の状況に応じて引き下げ(0.5%→0.4%)られるようにする。
- 厚生労働大臣は、育児休業給付に必要とする費用に係わる部分の雇用保険率を変更する際は、育児休業の取得の状況その他の事情を考慮して、育児休業給付の支給に支障が出ないように雇用保険事業に係る財政の均衡を保つことができるようにする。
3.特別会計に関する法律の一部改正
一般会計から雇用勘定への繰入
雇用勘定における一般会計からの繰入対象経費に、教育訓練給付に必要とされる費用で国庫が負担するものを追加。(2025年10月1日施行)
4.職業訓練の実施等による特定求職者の就職支援に関する法律の一部改正(2028年10月1日施行)
特定求職者の範囲に関する暫定措置について、当面、一週間の所定労働時間が10時間以上20時間未満である雇用保険の被保険者および当該被保険者であった間の一週間の所定労働時間が10時間以上20時間未満である受給資格者についても特定求職者となり得るとする。
※施行期日の記載のないものは2025年4月1日
議員さんに国会で質問していただきたいこと
- 雇用保険の被保険者の要件のうち、一週間の所定労働時間を20時間以上から10時間以上であれば適用対象とすることについて、より多くの人が育児休業給付などを受け取ることができるようになるということですが、強制的に加入者を増やして保険料を徴収するかのように見えてしまいます。たとえば、週2回5時間のアルバイトをすると雇用保険料を支払うことになります。失業給付も育児休業給付も受ける可能性が低い学生アルバイトからも保険料を徴収するということになります。今まで雇用保険料を支払わなくてもよかった人たちからも徴収するのは、実質的には増税にあたるのではないでしょうか。
- 近年、コロナ禍による失業者の急増により固定安定資金残高が約1.5兆円から0円と底をついてしまった状況の中で、教育訓練やリ・スキリング支援の充実を図るために、現行法では国庫負担のない教育訓練給付について、改正案では国庫負担ありに変更し教育訓練給付を①教育訓練給付金、②教育訓練休暇給付金に2分化することで歳出を増やすことに疑問を抱きます。
- 今回新たに創設される教育訓練休暇給付金についてですが、自発的な能力の開発のために在職中に教育訓練のために休暇を取得することで失業給付と同水準の給付を受け取り生活ができるというのを国がやってしまうのはおかしいと考えます。たとえば会社が企業努力で積極的に教育訓練を受ける従業員に対して補助金を出したり、独自に休暇制度をつくるのなら分かります。私自身もそのような会社に勤めていたこともあり資格を取得するのに補助金をいただいたこともあります。会社の人材確保のアピールポイントにもなる部分です。仕事をしながら学べるというスタイルを崩してしまうことで働くことへの意欲低下に繋がるのではないでしょうか。また教育訓練休暇を取得しない者の負担が増えたり、会社の利益が低下したりするといったことも懸念されます。
まとめ
今回の法案調査を通して、雇用保険制度とは何かをあらためて考えるきっかけとなりました。
個人的には育児休業給付を受給した期間が1年ほどあります。育児休業期間に感じていたのは、働いていないのにお金を補助してもらって生活することへの違和感でした。毎月雇用保険料を支払っているのだから当然給付を受けるのは正しいことだとはどうしても思えなかったのです。
私の母が私を産み育てた頃は、育児休業給付は存在しませんでした。産後半年ほどで仕事に戻ったものだと聞き驚いた記憶があります。国民負担率が30%台だったこともあり、20代で手取りもそれなりにあり貯金もできていたことで休むからお金がないから大変ということは今よりはなかったのかもしれません。
しかし今は50%目前の国民負担率48.4%(令和4年度実績)となっています。このような状況の中で雇用保険料率の引き上げを行い、雇用保険の被保険者の適用対象を拡大し、教育訓練やリ・スキリング支援の充実のために歳出を増やすのは本末転倒だと考えます。
私は雇用保険制度はこれ以上拡大すべきではないと考えます。
もし何らかの理由で働けなくなってしまった場合のセーフティネットとしての役割だけで良く、極端な話しではありますが、生活保護制度だけで良いのでは?と思います。
減税は福祉であるという考え方の自分としては、雇用保険制度において新しい給付を増やすのではなく、無駄な事業がないか点検および削減を実行し雇用保険料率の引き下げや国庫負担の引き下げを行うことが必要だと考えます。
つまり、バラマキをやめて減税を行うことで、賃上げとなり国民の可処分所得が増えます。
可処分所得が増えると、国民は自由に出産育児のためにお金を使うことが可能になり、わざわざ国から給付や支援を受ける必要が少なくなります。やはり減税こそ福祉であり少子化対策です。
さいごまで読んでいただきありがとうございました!!
第213回国会にて議論される雇用保険等の一部を改正する法律案について浜田聡参議員のご依頼にて調べました。今回、反対の立場をとらせていただきます。
雇用保険制度とは何かを振り返りながら法案の問題点について考えていきます。